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“走るマラソンカメラマン”辰巳郁雄写真展 走った!撮った!世界のマラソン

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学生街で30年前の味

2日前のネタが2日続いたあとですが、実はもうひとつ、3本目のネタを掲載します。

私の写真展「走った!撮った!世界のマラソン」の開催から3日でまる1年を迎え、まがりなりにではあっても毎日「走り」続けたこのブログも、ようやく2年目に突入。
写真展に11日間連続で来場してくださった「プレゼン・コンシェルジュ」のNOVOさんこと天野暢子さんからは「祝 1周年」と題するメールで「写真展から1年、ついでにブログも1年おめでとうございます」というお祝いの言葉をいただいています。

とはいうものの、ご覧の通り写真・記事の連日の掲載は、しんどくて息切れすることがあるのも確か。
こうして1日分のネタを何日分かに引き伸ばすことは、引き続き「あり」ということにします。
そして、その3本目のネタは何かといいますと、京都の学生街にある洋風の定食屋で、30年前と変わらない懐かしい味をたんのうしたという話です。

午後3時半過ぎから比叡山に登り始め、雪道や夕暮れのドライブウェイを歩き走って京都と滋賀の府・県境付近にある田ノ谷峠にたどり着いたのは6時半過ぎ。
7時過ぎになって峠に近い京阪バスの終点・比叡平から京都の中心街に下るバスに乗り込んだ際、にわかに空腹感に襲われて頭によぎったのが、この定食屋のことです。

ちょうどバスが店の近くを通るため、携帯でネット検索したところ、まだ営業しているかどうか不安だった店の名前がヒットしました。しかも、お店紹介のサイトには「30年前と変わらない味」という内容の書き込みも!
「自分で夕食を料理できるときは、独りで外食をしない」と決めている私ですが、これはもう誘惑に身を任せるしかなく、そそくさと「降車ボタン」を押してバスを降りました。

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その懐かしの定食屋は、京大理学部の北外れの学生街、元田中(もとたなか)にある「ひらがな館」(中央)。
京都大学ならぬ「京都にある大学」に通っていた私の大学時代に、店は1キロほど北にある学生街のなかの学生街、一乗寺(いちじょうじ)にありましたが、しばらく後になって今の場所に新しい店がオープンしました。
でも、今も昔も京都の学生にとってメーンの「あし」である自転車が店頭に並ぶのは、懐かしい風景です。

テントを担いでは独りで山をほっつき歩く一方、兄や京大の学生が中心になって芝居を「打って」いた人気の学生劇団にも出入りしていた私は大学時代、劇団の仲間たちと一緒に「ひらがな」に通い始めました。
「安くて美味しくて、栄養満点で満腹になる」と評判だった店は、学生向けの食堂がひしめく学生街にあっても飛び抜けた存在で、訪れるたびに、ぜいたくで幸せな気分に浸ることができました。

私は大学時代の前半は実家から通学。後半は兄と一緒に元田中近くのアパートで「下宿」暮らしをしました。
アパートでは、ぬか床で野菜を漬け込み、料理の本や雑誌を読みあさっては日ごろから兄と2人分の食事をつくっていた私ですが、劇団や学校が忙しいときなどに、ひらがなに通う回数は「自宅生」のときより「下宿生」になってからの方が増えました。

そして大学を卒業したものの就職が決まらず、アルバイトをしながら「就職浪人」をした1年間は、アパートを出て、近くの旧家で間借りをする本物の下宿をしましたので、ひらがななしには生活ができなくなりました。
というわけで、ひらがな館は紛れもなく「私の身体の一部をつくってくれた店」の1つなのです。

それでも店を訪ねるのは10年以上ぶりだと思いますので、馴染みだったマスターが変わっていないかどうか一抹の不安もありました。
「マスターって、20年以上もやっている方でしょ」と店に入って給仕のお嬢さんにきくと「そうだと思いますよ。さっきも一乗寺の(店があった)ころからのお客さんが見えていました」との答え。
そして厨房をのぞくと、全身を使うようにして、いきいきと料理をしているマスターの姿は昔のまま(右)。
「こんばんは」と声をかけると、マスターは目をまんまるにして「おおおっ」と叫んで、うれしそうな顔になって、「まだ新聞(記者の仕事)の方してんの?」と、私のことを思い出してくれました。

定食のすべてが創作料理であり野菜も遊び心もたっぷりで、一ひねりも二ひねりもあるメニューは、さすがに「新しい」ものもありましたが、その多くは昔のまま。
しかも、ご飯にサラダ、味噌汁付きの値段は700円台から800円台が中心で、これまたほぼ据え置き。
私は、定番の人気メニューの1つである(はずの)「雪見ミンチ」(850円)を注文しました(左)。

私が店に通っているころ、新メニューとして出されるようになった「雪見」は、ミンチカツの中心に豆腐が入っているアイデア料理。そのネーミングも、豆腐と肉がうま味を引き立て合う味わいも絶妙。
当時は、他のメニューより100円か200円高いというだけで「奮発する」気持ちになる特別な料理でした。
当たり前でありながら、不思議でもあるのが、その味が、ほとんど昔のままだということ。
そして、学生時代には注文をしなくても出してもらっていた、誰のものより山盛りだったご飯が、今回はプラス150円ではあるものの、やはり記憶しているのと同じでビックリの量でした。

目を閉じると、あっという間に流れ去った30年もの歳月を越えて、自分が、いま周囲のテーブルに座っている初々しい学生たちと同じ年代だったころにワープしていくような錯覚をおぼえます。
実際には、若い学生に囲まれて、ひときわ目立つ先生の方が自分とは同年代のはずだというのにです。

「こんな仕事、いつまでもやってられないよ」
懐かしい味と雰囲気に包まれると、そうこぼすマスターの言葉のほとんどの部分は冗談なんだと分かります。
お客である学生たちの健康も懐具合も思いやって、かつ極めてクリエイティブな「しごと」である料理を存分に楽しまれている様子が、昔も今も変わらないマスター。
お客の学生らに対して、そして自分の料理に対して、直球の愛情を注いでいるからこそ、京都だけではなく、どこにもないようなこの店を続けられているのだと思うわけです。

「お腹にまだ余裕があれば、どうぞ上がってください」
山盛りのご飯も料理も完食したオヤジの自分を不思議そうな目で見ながら、給仕の女性が運んでくれたのはサービスの手づくりケーキとコーヒー。これまた、それぞれ美味しくて、幸せな気分になります。
フロア中央の大きなテーブルに座る私の背後で、2人連れの女子学生が料理を食べながら「おいしいね!」を連発しているのを聞くと、豪勢にデザートまでいただいている自分が申し訳ないくらい。

店には格安料金のビールなどお酒も置いていますが、私は大盛りを食べることを考慮して注文しないまま。
次々に入ってくる学生らもビールも飲まずタバコも吸わない。それでも食事だけで満足できるからでしょう。
場所柄もあって、店にはこれまで京大をはじめとする学生らが大勢、通ってきたはずです。
身体ばかり丈夫になった私がひとかたならぬ世話になったばかりなく、ひらがな館は京都の学生街の文化をつくり、「日本の頭脳」を育ててきたとさえ言えるようにも思います。

「また来させてくださいね」「おお、また寄ってくれよな」
いつも厨房で忙しそうに仕事をされているマスターとは、ゆっくり話をしたことがありませんが、それでもずっと昔から互いに気心が知れているように思えます。
京都には、観光客受けする美味しい料理がたくさんあるはずですが、観光の街であると同時に学生の街でもある京都の、もう1つの顔に触れることができるとも言える学生街の定食屋「ひらがな館」。
年齢とは関係なく若々しいランナーにも、超お勧めできるお店です。

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