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“走るマラソンカメラマン”辰巳郁雄写真展 走った!撮った!世界のマラソン

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比叡山で修行体験7

今月13日から2泊3日の日程で駆けっこ仲間らと一緒に参加した比叡山延暦寺での修行体験のレポートは、7回目となる本日分の記事がひとまずの最終回です。

今回紹介する写真も前回に続き、未明から山の中を歩く回峰行の体験の際に撮ったものですが、今回は夜明けから朝にかけての9枚となります。実のところ今の時点では、前回の記事も写真の説明などが途中までしか書き終えていませんが、今回もまたとりあえず写真のみをアップしておくことにします。

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真夜中のエイドステーションとなった横川の四季講堂をあとにすると、かつて瀬戸内寂聴さんも研修を受けられたという「比叡山行院」の前を通り、コースは林道として開かれたとみられる広い歩道をたどり、次第に下り基調となりながら麓の坂本に向かっていきます。
ときおり坂本の街など琵琶湖西岸地域の夜景を樹林の間から望めますが、気が付くと空全体が次第に薄っすらと白み始め、足元を照らすライトの輪郭も薄れていきました。

下りの勾配が次第に急になり、道が何度もつづら折れを繰り返したあと、次なる休憩地点となった日吉大社の奥宮に達し、ここで私たちは夜明けを迎えました。この奥宮は、京都・清水寺の舞台と同じく急斜面に足場を組んで建てられた「懸け造り(舞台造り)」の建物で、ここから見下ろす琵琶湖の眺めは、まさに絶景。

その立派な舞台が見えたころ、琵琶湖の向こう岸の空が見事に赤く焼けました。朝焼けの色はカーマインというか、紅色がかった見事な色です。仲間たちは夜が明けて麓が近付き、ほっとしたこともあってか「きれいねえ」などと声を出して、次々にカメラやスマホを取り出して朝焼けの空に向けていました。

すると、休憩タイムに入った直後に後方からついてきてくれていた研修担当のお坊さんから厳しい一喝が入りました。
「あなた方は何なんですか!記録写真ならいいですけど、景色がきれいだからといって写真を撮っているんじゃ、ハイキングと同じじゃないですか!そんなんじゃ、私たちと一緒に来ている意味がありません!」

百日回峰行を経験している先導のお坊さんも「見たことがない」と言われていたというほどの見事な朝焼けを前に、暗やみでの修行モードから現実世界に戻ってきたような気分になり、私たちに気の緩みがあったのは事実のようで、この一喝によって、ちょっと気まずい空気が流れるとともに、緊張感も戻ったようです。
ただ、「記録写真係」としてカメラを出すことが許されていた私も、なんだか申し訳ないような気持ちになって、このあといっそう写真が撮りづらくなったことも事実です。

とはいうものの、この見事な空の色を写しとめないわけにはいかず、私は、場所を移動して舞台を入れるなどアングルを工夫することも、ストロボを光らせて仲間の様子を浮かび上がらせることもできないまま、露出だけには気をつけて何度かこっそりとシャッターを切りました。
結局のところ、そんな具合に浮ついた気持ちを抑えきれない私などに対し、真剣に向き合ってくれていたお坊さんには、申し訳ないと思うと同時に感謝の気持ちもわいてきます。

そんなことがあって気を引き締めなおした私たちですが、すっかり明るくなって山を下り、俗世に戻ってきてしまっては、修行を体験しているという意識が薄れていくのも仕方ありません。
延暦寺の「護法神」とされる日吉大社の境内を過ぎて、ゆるやかな坂道沿いに数多くの寺が並ぶ坂本の街に入ると、朝の散歩を楽しむ地元の人たちと次々とすれ違い、私たちは「おはようございます!」と声を張り上げながら、パンの軽食が用意されているという寺の「滋賀院」を目指しました。

滋賀院では、地元のパン屋さんから1人2つずつの美味しい菓子パンが届いていて、私たちは用意されていたゴザを広げていただきました。
延暦寺の精進料理は、動物由来のダシも使われていないということで厳格なベジタリアンと同じでしたが、パンは精進料理とはいえなさそう。また一緒に出された飲み物には牛乳もまじっていましたが、それはそれとして、私たちは再びピクニック気分に戻っていたようです。

BL140915比叡山回峰行体験2-4DSCF5636  BL140915比叡山回峰行体験2-5DSCF5635  BL140915比叡山回峰行体験2-6DSCF5637

滋賀院でパンをいただきながら空を見上げると、まるでメロンパンのような雲が頭上に広がっています。
でも、先ほどの朝焼けが、ほんの数分の間に色あせてしまったのと同じく、このメロンパンの雲もまた、見る見る向こうに流れて消えていきました。
「色即是空(形のあるものは、すべて空しい=実態がない)」
修行体験中に何度も唱えた般若心経の言葉が浮かんでくるようでした。

町に下りて、おなかの減りもおさまり、すっかり俗世のモードに戻った私たちは、なんだかゴールをしたような気分になっていました。しかし回峰行のコースはまだ3分の1ほどが残っていて、標高差500メートルほどの山道を一気に登りなおすこのあとの終盤こそが、コースで最も厳しい部分になります。

どんどん急になるアスファルトの坂道が途切れ、いよいよ山道に入るところで、先導役のお坊さんが言われました。
「ここからは本当の修行の一端を体験してもらうために、修行よりも少し速いぐらいのペースで行きます。着いてこれる人だけ着いてきてください。できない人は自分のペースで。後ろの指導員が一緒に行きますから」

そう言うやいなや、スラリとした体形のお坊さんは背中を見せ、黒いランニングシューズで地面を蹴って早歩きを始めました。山道で小走りするよりも速いぐらいのピッチで、短い距離のトレランレースを思わせるようなスピード。いきなりスイッチが入ったという感じで、ちょっと面食らったほどでした。
しかし、このいわば「挑戦状」は、私たちがランニングサークルの一行だと知ったうえでのサービスのようなものでしょうから、いきなり全員が脱落してしまっては申し訳ありません。私は、同年代の仲間2人と一緒に、着いて行けるところまで着いて行くしかないと思って、お坊さんの背中を追いかけました。

心拍数は跳ね上がって心臓の打つ音が頭に響きます。息もいきなり上がって、ときおり大きな呼吸を挟まなければならないほどです。「これはただごとじゃない」と焦るものの、ただ着いていくほかありません。カーブを切ってわずかに傾斜が緩くなっても、お坊さんの足はギアチェンジをするかのように速まるだけで、こちらに一息つく余裕を与えてくれません。

気が付くと、一緒にいたはずの仲間は後退してしまって、背後に人の気配はなくなり、まさにハシゴを外された状態です。
息は荒くなったままですが、こうなったら観念するしかなく、私は、苦しいときに重要な息を吐き出すことだけに集中して、お坊さんのあとを追いました。すると不思議なことに足は動き続けました。
このところの私はトレイルはおろかランニングさえもほとんどできていませんが、職場まで片道25キロをロードバイクをこいで通勤する際、見知らぬ自転車乗りの人にあおられてバトルをするなど強度を上げた練習をしていたことが功を奏したようです。4年前に完走を果たすまで富士登山競争とその練習に明け暮れたときの記憶が身体に残っていたのかもしれません。

「ちょっと走りましょうか」
斜面が緩やかになったところで、お坊さんは僧衣をひるがえし、飛んでいくようにダッシュされましたが、こちらもすっかりスイッチが入っていたようで、気持ちよく着いていくことができました。

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前日行われた比叡山の山内巡回の際、指導員の赤松さんにたずねたのを思い出しました。
「回峰行はトレーニングとしても大変な量ですから、足も速くなるはずでしょうが、そのあとにマラソン大会に出る方はいらっしゃらないのでしょうか?」
周囲の仲間たちからは「そんな失礼なことを聞いて大丈夫?」と言うような視線を感じましたが、赤松さんは柔和な口調のままで答えてくれました。
「回峰行をしてからマラソンを始めた人はいませんが、元々走っていた人は1人いらっしゃいました」
まさにその元ランナーのお坊さんこそが、この「無動寺谷」の難所を駆け上がるご本人だったのです。

「ああ、久々にいいトレーニングになりました。今のは普通の回峰行者の2倍ぐらいのスピードでしょうか。着いてくることができた方は初めてですよ」
ひとまずのゴールとなった明王堂で、こうおっしゃってくれたお坊さんのアベさんは、高校まで駅伝選手で、その後に始めたマラソンでは2時間42分まで記録を伸ばされた元エリート市民ランナー。百日回峰行の経験者で、最近まで居士林の指導員を務めてられました。住職をしている埼玉の寺から、たまたま別の用事で比叡山に来ていたところ、私たちが研修しているからと回峰行体験の先導を急きょ頼まれたということでした。

再びお茶が用意されていた最後のエイドステーションである、この明王堂に後続の仲間が到着したのは、早くて5分後、最後は30分以上もたってからでした。しかし私は同じ歳だというアベさんと、なんだか打ち解けあって、すがすがしい気持ちで仲間たちを待つことができました。

当初は少し生ぬるいようにも感じていた回峰行体験でしたが、こうして「比叡山のエース」とでも言うべきアベさんと出会うことができたうえ、その肩を借りることもでき、修行体験の締めくくりとしてスペシャルで充実感が残る経験となりました。

ちなみに、この明王堂こそが、実際の回峰行者の修行の拠点であり、回峰行のコースのスタート・ゴール地点だということです。
千日回峰行の行者が、修行のクライマックスとなる9日間の無補給・睡眠で過ごすという「堂入り」の舞台であり、その間に行者が仏さまにささげるために汲む「浄水」も、近くにわいていました。

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